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「あっぶねー!あの先生、話なっがいんだわ…」
「そうなの?」
「そうそう…
…あった!俺の愛車!」
俺の手を引いて逃げて来た先は校舎裏の駐輪場で、蒼井さんは自分の自転車のタイヤに付けていたチェーンロックを外す。
「ほら」
「…はい?」
「乗って?」
「は?乗ってって?」
黒いオーソドックスな自転車。…ママチャリ、と呼ぶにはタイヤがデカすぎるそれの、荷台にデンと跨がってなぜか俺に手招きしてる。
「俺が前?漕げって事?」
「あったりまえだろ?マネージャーなんだから」
「何言ってんのよ?どう考えたって俺が後ろでしょ!?」
「俺は疲れてんの!自転車なんか漕げないの!」
「はぁ?だっていつも乗って帰ってんでしょ?」
「もぉ屁理屈!いいから早くしろよ!」
はぁ?本当意味分かんない、なんなの?この人 。
でも結局…
「あーっ!くっそ重たい!」
「はい頑張れー、ファイトー」
蒼井さんを後に乗せて俺が自転車漕いで、学校を出て最寄の駅に向かった。
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「ねぇこれ、お巡りさんに見付かったら怒られちゃうよ?」
「大丈夫!見付かったら、ダッシュで逃げる!」
「は?逃げられるかよ?」
「はい、ブツブツ言わない!ほら頑張れ~!もう少し!」
「ちょ…本当に勘弁なんスけど…」
普段なんもしてない、運動不足の身体には、流石にこれはキツいっすよ?
重たいしムカつくし、え?坂!?こんなトコに坂なんかあったっけ?とか…
ワケが分かんないし強引なこの人に俺はずっと振り回されっぱなしで。
だけど…
日も暮れて、薄い紫に変わる空を見上げると
いつも一人で歩いて通ってる風景が、不思議と少し違って見えたんだ。
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