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それから蒼井さんはビュンビュン飛ばして、あっと言う間に駅に着いた。
「蒼井さん方向一緒?」
「そうだよ?俺んちこっち」
駅前の駐輪場に自転車を停めて、駅の階段を上がりながら家の方角を確認する。
辺りはもう真っ暗で、ホームに同じ高校のヤツはもういなくて
だけど10分置きくらいに来るその黄色い電車は、帰宅するサラリーマンなんかでごった返してた。
電車に乗ると、蒼井さんは俺をドア付近に立たせて、俺の横で手すりに凭れながらこちら向きに立った。
「どこなの?駅」
「幕帳」
「ふーん…」
じゃあ俺の方が先に降りるんだな…
「何で?」
「いや…うわっ!」
「おっ…と、あっぶねー…大丈夫?」
突然電車が大きく揺れてバランスを崩した俺を
蒼井さんが長い腕で支えてくれて間一髪、助かった。
「どうも…」
「もっと鍛えないとなー、森山くん」
頭の上から聞こえた声に顔を上げると、一瞬だけ目が合って、だけど蒼井さんはすぐに窓の外に視線を逸らして、腕組みしながら笑ってる。
混んでるから仕方ないけど、電車が揺れる度に近くなる距離、目の前には蒼井さんの異様に突き出た喉仏があって
もう一度チラリと見上げると、鼻筋の通ったキレイな顔立ち、長い睫毛、笑うと見える八重歯みたいな犬歯。そして…
「ネギくせぇ…」
「うるせぇ(笑)」
男から見てもカッコいいのは認めるけど、この距離でこれは拷問だ。
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