71人が本棚に入れています
本棚に追加
.
それから新学期が始まってすぐ
朝の通学途中の電車で“森山くん”を見た。
その日は朝練がなくて、いつもより少し遅い電車で、途中の駅で乗ってきた森山くんはウチの制服を着てた。
あの子受かったんだ!って自分の事みたいに嬉しくて声掛けてみようかなって思ったけど、同じ車両には同じ高校のヤツが結構乗ってて
入学したての初々しい子達が真新しい制服を来て、ドア付近ではしゃいでたし
だから俺はその近くの座席の前に立って、声は掛けられずに、その存在を背中に感じながら何となくその子達の会話を聞いていた。
『ハル、お前部活とかやるの?』
『俺?俺は取り合えず部活はやんないかな…』
『だってお前野球やってたじゃん?』
『やってたけどさ…』
『ハルは家庭の事情があんだよ…な?』
『そんなのないけどさ…取り合えず金稼いで家早く出たいから…』
『でもバイト禁止だろ?ウチの高校』
『そうなの?でも…
野球はやらないな…つうか出来ない』
『あ、そっかお前…手首、やっちゃったんだよな?』
『うん、まぁ…そんなところかな…』
そこまで聞く気はなかったよ?
でもまぁ、結果的に全部聞いちゃったんだけど。
だからその時『あぁ、そっか、だからか』って…
そういう理由があって、何となく影がある子なんだなって
その時初めて“森山くん”が時々悲しそうに笑う事情ってヤツを知ったんだ。
そんな出会いだったからね?
森山くんが俺の事なんか覚えてなくたって仕方ないワケ…
だけど折角受験に合格して、同じ高校に通ってるんだから楽しまなきゃね?って。
お節介かもしれないけど一杯楽しい思い出作ってあげたいな、なんて
それで俺、部活の勧誘、『俺がやります!』って自分から手、挙げたんだ。
“森山くん”の笑顔がもっと、見たかったからさ?
.
最初のコメントを投稿しよう!