俺達に吹いた、風。

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. その事実を知ったのは、中三の秋。 野球部の引退試合があって…後輩達は『追い出し試合』って呼んでたけど。 掲示板にその試合日時を書いた手書きのポスターまで貼られたりして、それはある意味、毎年恒例のイベントみたいになってた。 女子生徒なんかはお目当ての男子を堂々と見に来れるから、終わった後人気のあるヤツはみんなに囲まれてまるでアイドルのコンサートみたいな光景になるんだ。 だけど追い出される三年にしてみれば必死だよ。後輩に負けたら洒落にならないからな? 華々しく、先輩面して胸張って卒業できるように、全力でぶつかってくる、一、二年に何がなんでも勝たなきゃならねぇ。 プライドを賭けた勝負。 端から見てりゃそのムキになってる姿が面白くて見に来てるヤツもいんだけど… だからその日、見物しにきた生徒に混ざって、俺らサッカー部も冷やかし半分で見に行ったんだ。 だけど… 試合が始まって三年の連中がポジションに着いた所で、ハルがピッチャーマウンドにいない事に気が付いた。 それどころかベンチにもいない… 「おい、ハルは?」 「森山先輩なら来てないっすよ? まだ手首、治ってないんじゃないっすか?」 野球部の後輩を捕まえて聞くと、そんな返事が返ってきた。 そんなハズねぇよ…もう手首のギプスも取れて、良くなってるハズだ。 「もしかしてハル、ずっと来てねぇの?」 「来てないっすよ?ケガしてからずっと…」 「…マジかよ…」 寝耳に水だった。 三年は事実上、引退した後もその追い出し試合までは、受験勉強の息抜き程度に顔を出すのが通例だ。 なのに一度も来てないなんて… .
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