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その言葉に、頭に昇ってた血が一気に引いた。
「でき…ないって?」
「握力がね?弱くなっちゃってさ?後遺症、っつうの?
ボールがさ…握る事は出来ても、上手く投げらんない、っつうかさ…
手に上手く力が入んないっつうか…」
俯いて左手を見詰め、掌をゆっくり握ったり開いたりしてるハルに
俺は何て言葉を掛ければいいのか分からなかった。
「ほら…ファーストのベースカバー入って、走ってきたヤツと接触してこうなったから。
そいつも気にしちゃうでしょ?自分のせいかな?とかってさ…だから…」
「…んだよ…それ…」
「いや、リハビリしてっから、そのうち多分元通りにはなんのよ?
だけど周りに色々ね?心配されんのも、可哀想とか言われんのも嫌だしさ?
母ちゃんにも心配掛けちゃってるし…」
「ハル…?」
「泣いてんのよ、俺が寝た後さ?
姉貴と話しながら『好きな野球もできなくて可哀想に』とか言ってさ?
泣かれんのとか?マジでキツいからさ…
だから別にどうって事ないって顔してないとね?
けど心配してくれてんのは分かるから、せめて勉強して?親孝行とかしてやらないとかな?なんてさ…」
「ハル!」
「おわっ!…何?弦く…」
後半、鼻を赤くして涙で瞳を潤ませながら話すハルが見てらんなくて、気が付いたらその腕を掴んで咄嗟に抱き締めてた。
「ごめんな、ハル…」
「ちょっ…どうしたの?弦くん…」
「俺お前の事なんも知らなくてさぁ…ごめん、ハル…」
「弦くんが謝る事ではないじゃない?黙ってたの俺だし…」
「ごめん…」
そうだよ、お前はそんな情けない男じゃないよな?
簡単に夢諦めるような、そんな冷めたヤツじゃない。
疑ったりして悪かった、その辛さを分かってやれなくてごめん、責めたりして悪かった…
俺の心の中のそんな想い達が、涙になって溢れ出した。
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