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もう、こうなったら誰でもいい。最初に抱いていた恐れは、連続する失敗によって完全に麻痺していた。
電話帳から、目についた番号をプッシュする。
「はーい、もしもし?」
声の感じは自分の母親くらいの年齢だろうか。何となく話しやすそうな感じがした。俄然、勇気が湧いた。
「母さん、俺だけどさ」
「もしかしてヨウスケさんなの?」
まさか自ら乗ってきてくれるとは。これならいけると調子づいた。
「そうヨウス──」
「いえ、その声はマサルさん?」
「いや、あの、俺は……」
「そうやってどもる癖があるのはタケオさん?」
一体何人心当たりがいるのだ。
「母さんとにかく、……」
「よく分からないから息子に代わりますね! ちょっとあんた、お姉ちゃん達の旦那さんのうちの誰かなんだけど、代わってくれる?」
「──!」
息子に代わられては詐欺がバレてしまう。とっさに電話を切ってしまった。天然そうな人だったのに、侮れない。
ちくしょう、何でうまくいかないんだ。しかし、まだ諦めるのは早いかもしれない。世の中の詐欺師は、手を変え品を変え、根気強く頑張っているのではないだろうか?
だとしたら、話し方を変えてみるのもいいかもと思い、今度はフレンドリーな口調で試みた。
「もしもしオレオレ」
「どちら様?」
「俺だよオレオレ」
「え? 誰? 誰?」
「俺だよ俺、分かるでしょ?」
「オーレーオレオレ~♪ 分かった、ブラジル人だ!」
「──!」
からかわれた。グローバル化社会恐るべし。もう話を続ける意欲を削がれて、とっさに電話を切ってしまった。
どうして誰も騙されてくれないのだろうか? 不登校後ニートの自分には、話術とスキルが足りないのか。
心が折れそうになりながら、それでも諦められずに電話帳を凝視した。独り暮らしのお年寄りに当たれば、うまく騙せる可能性がある。
自分を奮い立たせて、電話番号をプッシュした。
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