僕の大好きなこと

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僕の家はマンションだから、あんまり花を育てられない。 でも、お母さんは僕が植物好きだということに早くに気づいて、ベランダにプランターを買って置いてくれた。多分幼稚園に入った頃だ。お母さんと二人で初めて植えたのは、確かマリーゴールドだった。育てやすい花で僕を喜ばせたかったのだろう。プランターから溢れるほどにオレンジ色が弾けていた。 小学校に上がった頃には、ベランダはぐるりとプランターで囲まれていた。遠くから見ても、そこが家だとすぐにわかった。家にいる時間のほとんどをそこで過ごし、僕にとっては大好きな空間だったのに、僕がそこにいるとお父さんはいつも怒った。 そんな草とか花とかじゃなくて、算数が出来ないとお父さんみたいに大きい会社に入れないぞ、って。 僕はとにかく怖くて、大抵黙って下を向いていた。でも時々、頭の中がぐちゃぐちゃになって、大声を上げた。 お父さんが僕を怒ると、お母さんがよく泣いていた。だから、突然、お母さんと二人でおじいちゃん家に引っ越すことになった時は、これでお母さんが泣かされなくなると思ってほっとした。
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