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暖かくなってきたある日、僕はやはり勝手に小さな苗を植え付け、花を育てている神社の境内そばの、マメツゲの植え込みの脇で、おじさんに声をかけられた。
おじさんは、チノパンによれっとした上着を着ていた。昔の記憶にある父親の、パリッとしたジャケットではなく。
「ぼうず。何植えてんだ?」
僕はどきっとした。マメツゲの切れ目切れ目に、サルビアが咲くように仕込んでいたところだった。あまり背が高くなりすぎないように育てると、見た目にもかわいらしい。
「お前、いろんなとこで花植えてんだろ。」
僕は俯いたまま何も言わずに立っていた。
じんわりかいていた汗がひいていく。
その頃中学生になっていた僕は、他人の敷地で勝手に花を育てるのは良くないことだということくらいはわかっていた。でも、花のこととなると見境がなくなる。ダメでもつい続けてしまっていた。
「…すみません…。」
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