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僕は、ゲームを買ってもらうより自転車を買ってもらうより、種をもらうほうがずっと嬉しい。
この時も、知らない人に話しかけられて警戒しながらも、目は、両手で大事に受け取ったその小さな白い包みに釘付けになっていた。何の種なんだろう、どんな花が咲くんだろう。包まれてまだ形さえ見えていないのに、頭はその事でいっぱいだった。
「お前なら、きっと上手く育てられそうだからな。」
僕は聞いた。
「…何の種ですか?」
「鏡の葉っぱが出る。花は残念ながら見たことがねえ。咲いたら俺にも見せてくれ。」
鏡の葉っぱ…。その植物は、僕を映すらしい。
僕はものすごく興奮してものすごく嬉しかったのに、それを無言で受け取った。
人との普通のやり取りが苦手だった。植物にはまっすぐに言葉をかけられるのに。
だけど、このおじさんはなんとなく土の匂いがする。少なくとも、父親より怖くなかった。
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