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 そのとき情報保全部・柳瀬(やなせ)波光(はこう)の声がホールに鋭く響いた。 「気をつけ!」  全員がその場に直立する。続いてホールにやってきたのは、タツオの兄・進駐軍作戦部の逆島少佐だった。ヤスオは挨拶も抜きにいきなりいった。 「今回の訓練の結果に、わたしたちは失望している。誰も負傷しない安全な戦闘訓練だとたかをくくっていないか。実際の敵は日乃元本土上陸と戦争終結を目指す血に飢えた氾(はん)とエウロペ連合軍なのだぞ。百万を超える巨大戦力だ。きみたちが敗れたということは、日乃元が蹂躙(じゅうりん)されたに等しい。それでも翌朝、こうして朝食の前にのんびりと自分の成績を確認したりできるのか。鳥居(とりい)少尉、どうだ?」  いきなり指名されたクニがその場でぴょんとちいさく飛び跳ねた。 「いえ、そんなことはできません」  逆島少佐が笑ってうなずくといった。 「そうか、それが全員の総意だな」  意味も分からずにその場にいた候補者はうなずいた。 「ならばけっこうだ。朝食の前でも後でもよい。74式をもって10キロのランニングを命じる。午前の座学が始まる前に済ませておけ」  失望のため息が漏れそうになるのを新任少尉がなんとかこらえた。おかしな声をだせば、ランニングの距離はさらに伸びるだろう。
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