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柳瀬波光が口をはさんだ。
「逆島少尉も同意見か」
ここは逆らわないほうがいい。ジョージが視線だけで、タツオを抑えた。タツオはしかたなく返事をした。
「はい」
だが、自分は「止水」をそうやすやすと訓練でつかうことはないだろう。だいたい自らの知覚や思考、運動能力を秘伝によって加速できるとしても、それだけで戦闘の局面を左右できるとは思えなかった。「呑龍」のように大勢の敵の動きを致命的に遅延させることはできない。「止水」はあくまでタツオ個人だけの技だ。兄のヤスオがタツオの顔を見て、目を細めた。これは笑っているのだろうか。
「よろしい。では、東園寺少尉と逆島少尉には午前中に15キロのランニングを命じる」
「はいっ」
返事をしたのはサイコだけだった。タツオの胸には不満が渦巻いていたが、顔は無表情なままにしておく。進駐軍に入ってから、タツオは顔の表情を切るスイッチを自由にオンオフできるようになっている。柳瀬波光がいった。
「以上だ。解散」
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