~僕がなくしたもの~

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僕はタツキにメールで「会いたい、すぐに会いたい」と伝えた。 僕は生まれてから今がいちばん美しいはずだから、この姿をタツキに見てほしい。 きっと目を見張るよ。 母譲りの美しさに目を奪われてしまうだろう。 きっと今の僕を見れば、彼女とはもう終わりだね。 あのブサイクな彼女とはバイバイ・・・。 夕暮れとき、人のない公園で、僕はタツキを待っていた。 タツキは、人探しのように園内をキョロキョロしながら歩いている。 僕はわざと声をかけずに、僕を探す彼をしばらく見ていた。 彼は僕に気付くだろうか・・・。 そのときタツキがこちらを見て、僕と目があった。 でも、彼は僕と気付かず目をそらしたものの、何かに気付いて再び僕を見て、目を見開いている。 気付いたんだね、タツキ。 「お前・・・何の冗談だよ」 僕は微笑みながら、タツキがこちらに歩いて来るのを迎えた。 タツキは驚いた表情も素敵だ。 「お前、その恰好なんだよ。どういうことだよ」 とタツキが言ったとき、僕はいてもたってもいられずタツキに抱きついた。 今こそ行動に移すとき! あの女からタツキを取り戻すために。 「タツキ、好きだ」 僕はタツキの唇に自分の唇を重ねあわせた。 その瞬間、僕はすごい力で突き飛ばされ、地面にたたきつけられた。 ひっくり返った僕をタツキが見下ろし、地面に何度もツバをはいている。 「なんだよ、お前、なんだよ! 何してくれるんだよ!」 タツキは、怒鳴りながら、地面の土を僕に向かって蹴り上げ、そして走り去ってしまった。 僕はそこから動けない。 涙が頬をつたう。 タツキが行ってしまった。 彼は美しい僕を受け入れてくれなかった。 そのとき、僕はタツキの愛どころか友情もなくしたことを確信した。 僕はタツキをなくしたんだ。 そして、もう僕は以前の僕には戻れない。 僕は僕もなくしてしまった。 僕は立ち上がり、母のワンピースに泥を付けたまま、公園を出る。 大切なものをなくした。 でも、もうそれらを取り戻そうとすることはないだろう。 僕はもう、本当の僕として生きるしかない。 そして、新しい大切なものが生まれるのを待つだけだ。 バイバイ、タツキ。 バイバイ、僕。 そして僕は、ただまっすぐに前を見て歩いていく。
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