俺の分まで

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「俺の分まで生きてくれ」 マサトの手を握る僕の手が震えた。 「そんなこと言うなあ!しっかりしろよ!」 僕の声は震えていた。 今、まさに消え行こうとしている命の灯火を消すまいと、 もう一つの手で包み込む。 マサトは末期がんで入院しており、若いため進行が早く、 見る見る体は蝕まれて行った。 隣ではマサトの彼女が涙を流し続けている。 「約束だ。俺の分まで・・・生きてくれ。」 うわ言のように彼は言い続けた。 「わかった。約束する。」 僕も彼は長くないと思ったから、せめて安心させてやりたかった。 すると、マサトは安心したように笑った。 最後の笑顔だった。 マサトは17年の短い生涯を閉じた。 通夜、葬儀の間も、まだマサトがここに居ない実感がわかなかった。 だって、マサトはまだ眠っているんだ。 そしていよいよ火葬場にマサトの棺おけが吸い込まれる瞬間に、 やっと彼の不在を感じる。マサトの彼女はずっと泣き続けるしかなかった。 マサトの彼女、ユリは僕の憧れでもあった。 ユリがマサトを選んだのも無理は無い。 マサトは本当にいい奴だったから。誰からも好かれ、誰にも優しかったのだ。 僕はあまりにユリが憔悴しているので、心配でその日からなるべく、 ユリの側にいるようにした。 今にも自殺しそうだったからだ。 生気を失った目が虚空をさまよう。 僕はそんなユリを見ていられなかったのだ。 それに、葬儀が終わった日に、マサトが夢枕に立ったのだ。 「ユリを頼む。」 夢なのか現実なのか、わからないけど、きっとマサトは、 恋人のユリが気がかりに違いなかっただろう。 徐々にユリは、少しずつではあるが回復していった。 当初はほぼ、何も口にせず、ただ泣き続けるだけだったから、 僕はずっと側にいて慰めていた。 今ではようやく、マサトの思い出話ができるくらいには、 マサトの不在を自分なりに納得しようとしているらしい。
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