俺の分まで

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マサトの四十九日が終わった日だった。 僕は体の違和感を感じて目が覚めた。 なんとなく体が自分の体ではないようなおかしな感覚。 僕は自分の手を見た。 違う。 僕の指はこんなに、細く長くない。 ベッドから降りて床を踏みしめる。 いつもと視界が違う。 ここはどこだ?僕の部屋ではない。 でも知らない部屋ではない。 何故なら僕は何度かこの部屋に来たことがあるからだ。 目覚まし時計の日付を見る。 4月16日。 僕は不安な気持ちで、階段を降りる。 洗面所の鏡を見る。 「マサト・・・・・」 俺の分まで、というのは、こういうことだったのか? マサトになった僕は何をすればいいのだ。 「あら、自分から起きるなんて、珍しいわね。 早く顔洗って、ご飯食べちゃいなさい。」 鏡に向かっておばさんが言う。 マサトのお母さん。 僕はパニックになった。 もう僕は僕ではなくなるのか。 とりあえず僕はマサトとして、マサトの家族と朝食をとった。 僕はわけもわからず、制服に着替えカバンを持って家を出た。 駅に着くと、僕はもっと驚くべきものに出くわす。 僕だ。本来の僕である、タクミが手を振り挨拶をしてくる。 「おはよー、マサト。」 自分に挨拶をされる。へんな気分。 少し遅れて、ユリが僕、つまりマサトを見つけ手を振る。 僕はとりあえず手を振り返す。 マサトに向けられるユリの笑顔はこんなにも素敵だったのか。 僕は混乱しながらもその日、マサトとして過ごした。 夜、マサトのベッドで天井を見ながら思った。 僕、このままずっとマサトなんだろうか。 僕はベッドサイドの小さな鏡を覗き込んだ。 懐かしい顔だ。イケメンだな、お前。このままマサトで生きるのも いいかもしれない。だって、マサトであれば確実にユリに愛されるのだから。 僕はマサトのベッドで目を閉じて眠りについた。
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