俺の分まで

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朝目覚めると、そこは見慣れた風景だった。 本来の僕の部屋、タクミの部屋だ。 僕はますますパニックになった。 どういうことだ? 目覚まし時計の日付を見た。 4月16日。 嘘だろ?だって昨日も4月16日だったじゃないか。 何がなんだかわからなくなった。 1日が2回来る。 僕はとりあえず、いつも通り支度をし、学校に出かけた。 そこは現実だった。 マサトの机は、空席。 ユリが僕を見つけ、無理して寂しく笑う。 痛々しいユリが笑うのだ。 人生を2倍生きろってことなのか? お前の分まで。 僕には荷が重過ぎる。 その日から、マサトの人生と、僕の人生を、ダブルで生きた。 人生が長すぎる。 一つだけダブルに良いことがあった。 それは、マサトの一日と僕の一日が同じだから。 マサトがした失敗は、次の日のデジャブで決して僕がすることは無かった。 マサトがうっかり怪我をしても、あくる日の僕はそのことがわかっているので 怪我をしない。 それからの人生は、僕は失敗をしないほぼ、完璧なものになった。 受験も、楽勝で志望大学に受かった。 僕はユリの側に居たかったから、同じ大学を受験したのだ。 僕とユリは大学に行ってから付き合いだした。 もちろん、マサトもユリと付き合っている。 すごく変な気分だった。 マサトの僕と、タクミの僕。 両方がユリと付き合っている。 僕はマサトになった時の自分自身に嫉妬したのだ。 やはりマサトに向けるユリの笑顔は最高だ。 僕は思い知らされたのだ。 僕とユリは結婚した。 マサトの僕とユリも結婚した。 人生が長くて辛くなった。 何よりも辛いのは、マサトとタクミでは、ユリの幸福度が違うこと。 タクミの人生は本当に退屈でつまらなかった。 マサトの後、何の失敗も無く、何の感動も無く人生が過ぎていく。 僕はマサトのリピートだ。 僕はだんだんと苛立ちを感じた。
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