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今日は思ったより仕事が一段落つくのに時間がかかってしまった。空もすっかり暗くなっている。その上風も冷たく、今日はハンバーグやステーキと言った気分では無いなぁ。もっと芯からあったまるような食べ物を……さと子の足は自然とスーパーへと向かっていた。
「今日は鍋だな」
おひたしに茹でた野菜は冷蔵庫にぎっしりとあるので、今日は鍋用の食材だけを買う。魚にきのこに春菊に~しらたきも忘れてはいけない。今回はあっさりとしたよせ鍋でいこう。
料理を購入し、家へと帰ったさと子は早速土鍋を取りだした。買ったものとよせ鍋のつゆを入れ、ゆっくりとかき混ぜる。この熱気が凍えた体にはたまらない。
「さて、今日はどんな方が来るのかなぁ」
お鍋にふたをして、次に、翌日用のおひたしのメニューを作り始める。鼻歌を歌いながら料理を作る。今回もたくさんの皿を用意し、その上にそれぞれのおひたしを乗せる。今回は、タッパーにも一部のおひたしを入れた。これは達海用だ。
「お聞きしましたよ、さと子様」
「何を?」
もはや突然人間に変わっても動揺しないさと子。ひたし様も気にせず話を続ける。
「おひたしめの考案した料理、達海殿にプレゼントして下さるらしいじゃないですか~! 感謝感激感涙でございます!!」
目をキラキラさせながら熱く語るひたし様。出会った頃のおしとやかさはどこへやら。
「うん。実際すごく美味しいし、おひたしって家庭的で手軽だからおすそ分けしやすいよね」
「そうでしょう、そうでしょう! おひたし程コンパクトでおすそ分けしやすいものは、漬物の次に他にはありません!!」
「漬物には負けてるのね」
痛いツッコミに、ひたし様はしゅんと落ち込んだ。
「ええ……漬物は味が濃く、漬け方によって味だって全く変わってきます。朝食で食べたい和食でも、やはり魚とみそ汁と漬物には一生勝てないのです……もっと人気になりたいであります」
物凄い野心である。だが、ひたし様の言う通り、おひたしが漬物より人気が出る日が来るとはあまり思えない。
「そうかなぁ。そりゃあ味が濃くて美味しいから人気があるって言うのも良いけど、おひたしって体に優しいから、そう言う意味で大切にしてくれる人もいると思うよ。野菜の美味しさを水煮して引き立てるしさ、ちゃんと食べれば美味しいから。少人数でも好きって人がいるだけでも良いんじゃない?」
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