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「うん。同僚に肉ばかり食うなって言われて、最近はおひたしとか鍋とか食べてるよ。今日は、サバを焼いたんだ」
『あら、体のこと心配してくれるなんて良い同僚じゃない。前電話した時より声も若干高いしね。痩せられたのも同僚のお陰じゃない?』
「声で太ってるとかわかるの!?」
『当たり前でしょ。アンタの声、1番聞いて来たのは私なんですからね』
と言うことは、今まで電話口でもう既に自分の体型を察していたのか。母親とは恐ろしい生き物である。だが、そんな母親にちょっとした感動を覚える。自分のことを何時も気にかけてくれる母親。胸が熱くなった。
『自分の体を1番大切にしなさい。それじゃあ、そろそろ社交ダンス教室の時間だから切るわね』
「有難う。お母さんもね。お父さんにもよろしく」
電話を切り、テーブルの前に座ると一息ついた。
「全部分かってたんだな……」
そのまま大の字になって寝転がって天井を見る。視界には真っ白な天井が映っていたが、途中で寝ぼけまなこのねむたろうに変わった。
「変な意地張ったって、さーのこと大事に思ってる人にはお見通しだったりしてね」
「そうみたいね。勿論、アンタもね」
近い距離にあるねむたろうの額に優しくデコピンをする。
「もっと色んな人に心開いて、ちょっとお話してみたりしてさ、貴方のこと大事に思ってくれる家族みたいな存在、作りな……よぉっ!?」
さと子が話している途中から、だんだんとねむたろうの瞬きが増えてきた。嫌な予感を大いに感じていたが、目を瞑ったねむたろうは、そのまま顔を近づけて倒れてきた。とっさに横にごろ寝状態で回転移動すると、ねむたろうはガンッと地面に顔をぶつけた。
「あっぶな……この子何時寝るか分かんないからな。気を付けよ」
せっかく母親からボタンの情報も得たので、さと子は紫色のボタンをもともとクッキーの入っていた缶ケースに入れた。その背後から、ねむたろうは片目を開けてさと子を見つめていた。
「にしても、この子は一体どうしたらご飯に戻ってくれるのかしら」
「そんなに食べたい? オレのこと」
「うん。サバをね。でも、これからダイエットしても全然オッケーよ。お母さんと話したら、元気出て来ちゃったから!!」
「うーん……」
ねむたろうはしばし考えたものの、大きなあくびをすると、とろんとした目で言った。
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