10:焼き魚と記憶探し

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「そう言うのはいいや。肉に任せる。じゃ、おやすみ」  ねむたろうが目を瞑ってその場に横になると、その姿から姿を消し、元のサバの料理に戻った。 「ご飯と一緒に食べたかったけど……さっき食べちゃったから我慢しなくっちゃ! いただきます!!」  両手を合わせてサバに箸を入れると、ホクホクの白身が現れる。サバは美味しいが、小骨が多いので喉に注意だ。そう言えば、幼い頃は母親が自然と分けてくれていたな。あの時から、母親は自分の身を案じてくれていたのだ。それは時の経過とともに無くなったが、母親は何気ないところで家族への気遣いをたくさんしてくれたのだろう。そんな母親に、ロクに連絡もせず、顔も出さない。幾ら仕送りをしてても、見せるのが恥ずかしい体型になってたとしても、両親にはちゃんと顔を見せて、安心させてあげなくちゃ。  色々思い出したところで、小骨も大体避けた。後は刺さってももう知らない! さと子は身を口に運ぶ。淡白な見た目からは想像つかない程に脂が口の中に広がって、お肉の脂とはまた違う美味しさだ。こんなにジューシーで頭が良くなるのなら、もっと食べても良いくらいだ。 「ご馳走様でした」  さと子は両手を合わせて頭を下げた。食器を片づけると、何だか物足りない気分になった。従来の休日ならば、部屋をごろごろして終わりだったのだが、最近はダイエットに明け暮れる日々だった為、何もしないことが勿体なくてどうしようもない。体を持て余すような感覚だった。しかし、ダイエットの付き添いにするには、既におかずを作っておかなくてはならない。幾ら料理が作った時のまま温かいからと言っても、まだ9時半だ。お昼ご飯を作るには早すぎる。 「よっしゃ、掃除でもするか」  さと子は、普段はおろそかにしていた細々とした場所の掃除を始めた。何気なく始めたものの、案外やってみると熱中する。叩きでほこりを落とし、掃除機で吸い込んだ後、雑巾でちりを完全に拭きとった。 「おうやっとるのうさと子」 「何だ神様、暇なの?」 「暇とか聞くんじゃない。暇だとしても、神様が暇とかそうそう言わんから。それはそうと、掃除ならワシも得意じゃ、手伝ってやるぞ」 「本当ですか!!」  目をキラキラとさせるさと子に、神様は偉そうに鼻息を荒くし、人差指の伸びた棒をエアコンに向けて指す。 「あそこじゃ。あそこにホコリがおる」 「……はい?」
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