翠玉の目覚め

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 渋々彼の後についていく奏太。その最中も一切の気は抜かないし、殺気を飛ばすことも忘れない。  奏太にとっては、これが初めてのゲート使いとの出会いだった。本来、力が一か所に固まることがないように、ゲート使いは一か所に固まらないようになっているらしいのだ。らいし、というのも、ゲートに関する文献はかなり少なく、そもそも日本人の一億七千人の人口の中からうまく隠れている14人のゲート使いを探して研究を進めるということは無理難題である。  会長が立ち止った茶色の扉の前。その扉には「生徒会室」の文字。その下に「会長の許可のない入室は厳禁である」と赤字で記されていた。  この当時は奏太もこの学校の制度をあまり理解しておらず、いったい生徒会長というものがどのような立場なのかよくわかっていなかった。  中に通され、すわり心地のいいソファーに座らされた奏太。会長は奏太に少し待っているように言うと、奥の扉に入っていった。その間に、生徒会室をぐるりと見回す。  たくさんの文献。属性にかかわるもの、クロットにかかわるもの、生徒の名簿、教員の名簿、成績表、政府の資料など、本棚いっぱいに資料が詰まっていた。そして、奏太が座るソファーの前に置かれた長テーブルとその奥に置かれた机。そこには「生徒会長」とかかれた置物と、たくさんの書類が積み上げられ、判子と朱肉と黒い万年筆が投げ出されていた。  何とも生活感のあふれる場所だろう。しかし、いくつかの違和感がある。  まず、歴代の生徒会長に関するものが一切外に出ていないこと。壁には学校の見取り図と、行事の企画書などが張られているだけだ。次に、背表紙だけでは内容のわからない本がたくさん置いてあること。どうにも綴じ方が日本の物とは思えないのだ。最後に、この部屋は属性がかなり薄いこと。属性が充満するこの学校であるのに、この部屋だけは力の粒があまりない。会長が通ったところに楽しげな雷の属性がふよふよと遊んでいるだけだった。 「お待たせ」  お盆にカップを二つとクッキーの乗った皿を載せて現れた会長は、奏太の前にカップと皿を置くと、その向かいに自らのカップを置いて座った。 「さて、何から話そうかな」  奏太はとりあえず、カップに注がれている紅茶のにおいを確認する。独特の甘い茶葉の香りが鼻を突いてきた。 「……茶葉は…?」
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