翠玉の目覚め

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「断る。あんたの調べにもあったはずだ。俺に団体行動は向かない。それと、ゲート使いは近くにいるべきじゃない」  奏太の答えを知っていたかのように来人は表情を変えなかった。 「あったけど、個人活動さ。君のその能力はとても便利なものでね。しかも実戦経験も豊富ならなおのこと。この学校には多々ガイストが侵入してくる。それを退治する係になってほしいんだよ。もちろんタダでとは言わない。学費はすべて免除、生活への支援もつける。何よりも、この学校において、生徒会としての権限を与える」 「その生徒会としての権限? そんな魅力を感じるもんでもないと思うんだけど」  奏太が今まで通ってきたのは普通の、ごく一般的な公立の学校であり、その生徒会の権限と言っても、行事の取り仕切りぐらいなものだ。団体行動が苦手な奏太にとってはマイナスのことしかない。 「あれ、知らないかな。この学校の生徒会の制度って結構有名なんだよ」 「この学校の情報は国家機密とやらで厳密に守られてるからな」  日本政府に対し、あまりいい感情を持っていないのか、奏太は皮肉を込めた一言を返す。  この藤苑高校および楼苑高校の情報はほとんど外に出ていない。出ていても寮の受け入れ態勢、部活の有無などである。授業シラバス、学生たちの生活、校則はおろか校内の見取り図すらどこにも載っていなかった。奏太に本気で調べる気がなかったというのは大きな原因であるだろうが、普通の高校に比べて情報はとても少ない。 「あんたの家が特別なんだろ。稲荷家の御曹司さんよ」 「君もよく調べてあるじゃないか」 「そのことぐらいしか知らねぇよ。稲荷なんてそうそういる名字でもないし。実際、あんたが名乗るまでは疑いもしなかった。これはいいから話を戻せ」 「……この学校における生徒会の立場は、絶対なんだよ。それは、生徒の上に立つことはもちろん、教員たちよりも上の立場であることを示す」  奏太の瞳が眼鏡の奥で丸くなる。 「は?それじゃ、教育機関として成り立たないんじゃ……」 「それが成り立つのがこの学校さ。俺を筆頭とする生徒会のメンバーはそう多くない。その彼らですら、俺には逆らえない。つまり、生徒会長がこの学校のすべてを握っているんだよ。あのハg……校長をはじめとする教員たちは政府の管理する操り人形だよ。ま、生徒が暴走しないための見張りでもあるけど」
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