翠玉の目覚め

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 先ほどまで品のいいお坊ちゃん感を出していた来人から暴言が聞こえそうになった気がしたが、今はおいておこう。奏太は、先ほど見開いた瞳を細め、来人を見据える。 「要は、今の実権はあんたが全部握ってて、あんたさえ暴走しなければ、ここは学校としてやっていけるってわけか」 「そうそう。けど、この時代、政府に楯突こうなんて考えてるバカはそんないないから統制も何もないんだけどね」 「で、俺が生徒会の特権を持つメリットってのは何」 「基本的に自由に過ごしていていいよ。君みたいな性格の子は教室にいるのすら苦痛だろうから。授業を受けなくても構わない。ただ、校内にガイストが侵入したときだけ、退治してくれればそれでいい」 「それだけの特典のために、目立つ組織に属すのは気が引けるな」 「授業サボってもうるさく言う人は誰もいないってことなんだけど。それに、さっきも言ったように、生活補助も出す。どうせ、君、寮に入る気はないんでしょう?」  奏太は現在東北地方在住であり、四月からは都内のマンションに引っ越し、一人暮らしをする予定だった。知人の所有するマンションのため、家賃や光熱費は無償と言われれば引っ越すほかはない。しかし、食費や学校までの交通費は自分で負担すると奏太から申し出たのだ。すでにアルバイト先も決まってはいるが、学校の拘束時間を考えると、やはり厳しいところはある。そこに舞い降りた補助の話……学校のトップからの直接の申し出ということは、学校の経費、つまり、政府の経費から落とされるもの。それは、一般で言うところの奨学金に当たるものだろう。奨学金は借りたら返さなくてはならない。生徒会に入らなければ、学費の免除もないのだろう。そうするとますます生活は困難になる。三年間の学費と生活費。ざっと見込んでも300万はくだらないだろう。 「これは奨学金として貸与じゃなくて、藤苑高校生徒会からの付与、なんだけど」 「乗った」  霧崎奏太(15)。容姿端麗、文武両道な小柄な少年は、こうして生徒会入りを果たしたわけなのだ。  
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