翠玉の目覚め

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 今思えば、それらはすべて奏太を動かすための都合のいい口実に過ぎなかったと気が付いた。  授業時に教室に居なくとも咎められない、ということは、授業時間に自由に活動できることになる。そして、学費と生活補助を出すことで、奏太に無理なアルバイトをさせず、放課後まで校内に縛りつけておくことができるのだ。入試の疲れはあったとはいえ、もう少し考えるべきだったと奏太は思う。何も条件に不満があるわけではない。ただ、来人の思い通りに動かされたことが気に食わないのだ。 「奏太、この後生徒会室来る?」 「……行く」  また屋上に戻るのは面倒だし、生徒会室の居心地が悪いわけではない。  来人はそこまで信用できない人物という訳ではない。それは、ここにきてから数週間彼を見てきて思うことだった。  この稲荷来人は政府関係者の中ではそれなりに顔が知れている存在である。というのも、彼の父親は政府の属性省の長であるからだ。現在のこの国における属性という存在はあまり大きくはない。それは、極端に使用できる人物がほんの一部しかいないため、言葉は知っていても深いことは何も知らされていない。興味もすらも持たない。ただ、在ることを知っているだけという状況ではあるが、ガイストの対策としてこの属性省という名の大型属性研究組織に多額の資金が投入されている。つまり、国民からの指示は特にないが、国からは支援されているのだ。その理由は国の上層部しか知らないようだが。  とにかく、来人はそんな父を持つお坊ちゃまで、幼いころから英才教育を受けてきたエリートに違いないのだが、最初彼の名を聞いたとき、親の七光りを疑ったのは上記の理由からであった。実際のところはまだよくわかっていない。それは、奏太がこの学校の生徒会以外の人間とほとんどのかかわりを持っていないところにあった。クラスにも行かなければ、人気のある場所にはめったに表れない。教員たちですら奏太の存在を知らないものが多い。そもそも奏太は周りにゲート使いであることも多重属性であることもばらしていない。それを知っているのはこの学校の中では来人だた一人である。
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