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その時、実技試験はもちろん、筆記試験も難なく終えた奏太は早々に帰路につこうとしていた。
外に出るための昇降口にはすでに多くの学生がおり、その中を通っていくのは時間と手間がかかるだろうと、どこか別の出口を探していた時のことだった。
「人のいない出口なら、西棟とここをつなぐ渡り廊下に行くといい。そこからなら裏門が近いからすぐに出られるよ」
突然背後から声をかけられ、振り向けば、そこには綺麗な笑顔を浮かべた茶髪の青年のの姿があった。
たとえ、あたりに人が多かったとはいえ、奏太はまったくその気配に気づくことができなかった。それなのに、一度その存在を認識したとたんに、彼から言葉に代えがたいものを感じ取った。
「なんだ、あんた」
中学校の制服であった学ランのポケットから手を出し、警戒しながら彼との距離をとる。すると、彼は笑顔を崩すことなく奏太に返事を返した。
「俺はここの生徒会長。テスト前に君たち新入生の前で話をしたじゃないか」
「……」
「そんなに警戒しないでくれよ。取って食おうってわけじゃない。ただ、君には個別で話があるだけだよ。霧崎奏太くん」
「!」
名前を呼ばれ、警戒心は一層強くなる。
「君のその眼で”視れば”すぐにわかるよ。俺がどうして君と話がしたいか」
奏太は上目づかいに彼を睨み付け、彼を”視る”。
ここで、奏太の眼について説明しておこう。
属性を扱える者の中には、瞳に特殊な能力を宿すものがいる。奏太の瞳もその一種で、見る者の属性を見ることができる。つまり、属性の力の流れと形を把握できるのだ。これによって、相手の攻撃を先読みしたり、相手の攻撃陣が完成する前に打ち破ることができる。また、今までそういうことはなかったのだが、これによって、自分の属性で戦うには不利な相手を事前に知ることができる。しかし、奏太ほどになればその辺は慣れでどうにでもカバーできることなので、この能力は久しく使っていなかった。この能力は便利な反面不便なところもあり、属性の力が密集しているところだと視界の妨げになってしまうため、むやみに使うことはできない。
彼を一目観た瞬間に、奏太は両手首から槍を出現させた。
「ゲート…!」
「待ってくれ。さっきも言ったように俺は君と話がしたいだけなんだ。できれば武器を収めてほしい。俺に戦闘の意思はない」
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