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そして、毎朝の習慣がやって来る。
いつものように、出社の30分ほど前。会社の近くの喫茶店にやってきた。
「いらっしゃいませ。あちらのお席ですね、どうぞ」
毎日のように顔を合わせる店員は、俺の顔を見るなりいつも通りの案内をする。あの、ガラスで仕切られた席の方に。
“喫煙”
そう書かれた看板がささやかにぶら下げられたその先は、俺が抜け出せない白煙の場所だった。
今日もまた、俺は隅に追いやられる。禁煙席に座っていたのは高校生の時くらいまでだったっけ。そんなことを考えていると、店員がブレンドコーヒーを運んできた。カップから漂う香ばしい香りと、手元から漂うくすんだ香りが絶妙にマッチする。
「また値上がりするんだよなぁ」
そう呟きながら、背広の胸ポケットに仕舞ってある白い粒を取り出す。こんな気休めでは、何の役にも立たない。そう気付いたからこそ、タカに渡すのも苦ではなかった。俺には不要なものだ。
「こんなガム噛んでやめれるなら、とっくにやめてるっつーの」
つい1年ほど前に値上がりした煙草代に加え、このガム代も加算されたことを思うと、溜め息が漏れた。これは、惨敗だな。
そして今日もまた、珈琲と煙草で一日が始まるのだった。
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