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俺にも家族が出来ていたら違っていたんだろうか。そんなことを不意に思った。
半年前にデキ婚した田崎は、3か月前にこちらから抜けてしまった。嬉しそうにお腹の大きな嫁の写真を見せながらニヤニヤしていた彼は、すごく幸せそうだった。この場合、周りがもうどんどん結婚している中、30歳を越えて独り身という立場だから、羨ましく思えただけなのは否めないが。
「森崎も、やめるらしいな」
「あ、マジで?」
森崎は、入社当初同じ課にいた気のいいやつで、フロアが別れてもよく飲みに行っていた。仕事の応対もスマートで上司にも気に入られていたし、その甘いマスクから女子社員に人気もあった。
「あいつまでやめたら、俺ら本当に負け組みたいじゃん」
タカが拗ねたように唇を突き出していた。まぁ、本質はそうなのかもしれない。俺ら二人は、この道を進むと決め込んでいるわけでもなければ、何も考えずにだらだらと過ごしてるわけでもない。いつかは…その意識があるからこその、所謂(いわゆる)負け惜しみなのだ。
「まぁ、そう卑屈になんなって。ほら、じゃーん」
そう言って、俺は懐から薬のように密封された白い粒を取り出してみせる。
「あ、なに、お前買ったの?」
「んー、ものは試しって言うじゃん。タカも一つ、試してみる?」
「いいのかよ。これ、案外高いんだろ?」
そう言いながら、遠慮した様子もなくタカはその一粒を手にした。
「べつに、これで上手くいくかは分かんねぇけど、今後のこと考えたら投資みたいなもんだろ?」
格好良く言ったところで事実が変わらないことは分かっているのだが、そんなくだらないことでも言っていないと、こんなつまらない会社の飲み会などやっていられない。
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