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◇
このご時世、俺たちのような人種は迫害を受けてしかるべきという風潮ができてきた。今もこの小さな箱の中で、この片隅に甘んじているのは、いつしか勝ってやるという思いを胸に秘めているからだ。
薄いガラスの向こうでは、老若男女が楽しそうに会話と時間を楽しんでいる。俺も、あちら側にいた頃があった。もう何年前のことなのか思い出せないが。
俺、沖田 博(おきた ひろし)が、こういった迫害を受け出してからはまだ言うほどの年月は経っていなかった。
街を歩きながら、通りすがりの人にあからさまに顔をしかめられたときは、さすがに少し凹んだものだったが、俺にだって強い意志がある。いつかはきっと、この衆人環視の嫌な環境から抜け出すと決めていた。
「博、俺ら一番端の席だって」
職場の飲み会に参加した俺は、同僚のタカにそんなことを言われた。
「あぁ、わかってるよ」
こんな扱いにも、もう慣れていた。こっち側の人間は年々減っていたし、だからこそ、妙な仲間意識もできてきていた。タカも言うに及ばずで、俺らはいつもセットのように隅の住人として社内で扱われていた。
「それにしてもさぁ、課長が変わってから余計に肩身狭くなったよな、俺ら」
タカが不満そうに漏らす。
「あんまこういう場で言うんじゃねぇよ。めんどくせぇだろ」
「まぁ、嫌いなやつからしたら近寄るなってことなんだろうな」
「適度なところで切り上げりゃいいんだ、気にすることねぇよ」
俺はタカを冷静にたしなめた。
そんな話をしていたところで、ファーストドリンクが運ばれてくる。車で帰るやつ以外は全員ビールという、いかにも日本人らしく右へ倣(なら)えのこの会社。車組は、烏龍茶。妙な空間だ。俺たちは、学校で豊かな教養を身に付けるよりも、出る杭は打たれることを学ばされたように思う。
なんとも哀しい世の中だ。俺たちは決して、悪いことはしていない。ルールの中で生きているというのに。
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