1・鱗の男

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 人族に似た外見をしてはいるが、明らかに違う種の生物――『亜人』。  姿かたちから生態まで多種多様のバリエーションがある亜人の中で、こいつらは岩熊という名で呼ばれている種族だ。山岳地帯に住み主に肉を食う。  人族ほどではないが知能があり、通貨の概念も解している。そのため、狩りの獲物に主食の猪やうさぎではなく、割のいい……有り体に言えば、金を持っていそうな旅人を狙う。  悪知恵だけは働くやつらだが、まっとうに働くという方向の思考回路は持ち合わせていない。今目の前にいるこいつらは山賊であり、そして同時に賞金稼ぎでもあった。  私に弓矢を放った奴は、おそらくそのリーダー格だろう。1番むかつく顔をしているし、ハゲだし、周りの奴らよりもひときわ大きい。肩幅は私の3倍はあるし、身長も一番高い。……ただ、人族の基準で考えれば確かにとんでもない大男だが、それでもこのリーダー風の男は岩熊としては小さいほうだ。  岩熊は個体による体格差が非常に大きい。小さな者で人族の女性程度、大きな者では4、5m、そして最大で10mをゆうに超えるという、まさに化物そのものの個体もいると聞いている。  凶暴で話が通じず、腹が減れば他種族の肉すら食う筋骨隆々の巨大種族、岩熊。 私の中では、山の中で1人旅をしている時に出会いたくない亜人種族、ナンバー1だった。  出会ってしまったが。  しかしながら、野蛮人で有名な岩熊が持っている弓はなぜか最新式だった。バネの力で弦を引くタイプのもので、射程距離・威力ともにかなり高い。……まったく、一体どこのどいつがあんないい武器をこいつらに渡してしまったのだろうか。  どうせ盗まれたんだろうし、元の持ち主はもう生きてはいないだろうが。  だが、私はそいつを恨むぞ、畜生。 というか筋肉達磨なんだから、自分の筋肉だけで戦えよな。野蛮人のくせに道具なんか使いやがって。  そんな風に心中で悪態を付いていると、ふいに岩熊が正面にかがみこんできた。続いて垢まみれの汚い顔が目の前5cmの所までグッと近づけられ、黄色い乱杭歯がずらりと並ぶ顎がガバリと開かれた。粘ついた口腔。腐った肉のような強烈な匂いが鼻をさす。
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