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「女。紺の長い髪と……紙みてぇに白い肌。黒いコート。ふん、やっぱり間違いねぇな」
手元に汚い紙切れが見えた。おそらく手配書だろうーー私の。やっぱり、髪は切るべきだったかな?
そんな今更すぎることを後悔していると、確信を持ったらしい岩熊が手配書をくしゃりと丸めた。煩わしそうな、苛立たしげな、しかしどこかゆるんだ、なんとも締まりのない表情をしている。当然か。私の手配書の人相書きの下には、1を筆頭に0が8つも並んでいるのだから。
いや、案外金だけが目的ではないのかもしれないな。
もしかしたらこいつらには、私を捕まえる別の理由があったりするのかもしれない。もしそうなら、厄介なことになるが……。
「チッ、犯罪者風情が散々手こずらせやがって。おかげでこんな山奥まで来ちまったじゃねぇか」
……口ぶりから察するに、そんなことはないらしいな。まったく、そのセリフはそっくりそのままお前に返したいぞ。
「なぁに、殺しゃしねぇよ。ボスの言いつけだからな。だがまぁ、それなりに苦労したんだ。ちょっとぐれぇは遊ばせてもらうぜ」
そこでリーダーは不敵な笑みを浮かべ、ビシッと太い指をこちらに向け、高らかに叫んだ。
「覚悟しやがれ、イリエ・フォレストレインス!」
……。
「……え、人違いです」
思わず敬語になってしまった。
なんだその、自然愛好家みたいな名前は。
「あ?」
決め台詞のようなものを吐いて、しかし吐きそこねたリーダーの背後から、子分が一人慌てて走り寄ってきた。耳打ちをしている。といっても、私とリーダーの距離は50cmもないのでまる聞こえだが。
「リーダー、イリアっす、イリア・ファストレインスっす!」
うーん、おしい!でも違う!
私はさすがに耐え切れなくなって、声を上げた。
「イルアだよ!イ・ル・ア!イルア・ファストレインス!字も読めないのか!」
「……ちょっとぐれぇは遊ばせてもらうぜ!覚悟しやがれっ!イルア・ファストレインス!」
「敵に教えてもらって言い直すのかよ!」
お前ら、最高にださいぞ!
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