1・鱗の男

4/76
前へ
/285ページ
次へ
「女。紺の長い髪と……紙みてぇに白い肌。黒いコート。ふん、やっぱり間違いねぇな」  手元に汚い紙切れが見えた。おそらく手配書だろうーー私の。やっぱり、髪は切るべきだったかな?  そんな今更すぎることを後悔していると、確信を持ったらしい岩熊が手配書をくしゃりと丸めた。煩わしそうな、苛立たしげな、しかしどこかゆるんだ、なんとも締まりのない表情をしている。当然か。私の手配書の人相書きの下には、1を筆頭に0が8つも並んでいるのだから。  いや、案外金だけが目的ではないのかもしれないな。  もしかしたらこいつらには、私を捕まえる別の理由があったりするのかもしれない。もしそうなら、厄介なことになるが……。 「チッ、犯罪者風情が散々手こずらせやがって。おかげでこんな山奥まで来ちまったじゃねぇか」  ……口ぶりから察するに、そんなことはないらしいな。まったく、そのセリフはそっくりそのままお前に返したいぞ。 「なぁに、殺しゃしねぇよ。ボスの言いつけだからな。だがまぁ、それなりに苦労したんだ。ちょっとぐれぇは遊ばせてもらうぜ」  そこでリーダーは不敵な笑みを浮かべ、ビシッと太い指をこちらに向け、高らかに叫んだ。 「覚悟しやがれ、イリエ・フォレストレインス!」  ……。 「……え、人違いです」  思わず敬語になってしまった。  なんだその、自然愛好家みたいな名前は。 「あ?」  決め台詞のようなものを吐いて、しかし吐きそこねたリーダーの背後から、子分が一人慌てて走り寄ってきた。耳打ちをしている。といっても、私とリーダーの距離は50cmもないのでまる聞こえだが。 「リーダー、イリアっす、イリア・ファストレインスっす!」  うーん、おしい!でも違う!  私はさすがに耐え切れなくなって、声を上げた。 「イルアだよ!イ・ル・ア!イルア・ファストレインス!字も読めないのか!」 「……ちょっとぐれぇは遊ばせてもらうぜ!覚悟しやがれっ!イルア・ファストレインス!」 「敵に教えてもらって言い直すのかよ!」  お前ら、最高にださいぞ!
/285ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加