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そんなことを思って露骨に呆れた顔をしていると、恥をかいたという自覚はあったらしいリーダーが苛立たしげにナイフを取り出した。ごつい指には似合わない、華奢な細工物のナイフーーそのひんやりとした薄い刃先を、私の頬に突きつけてくる。
いや、少し切れた。よっぽどよく手入れされているらしく、それだけで頬の皮が切れ、ぴりっとした痛みとともに血が流れる感覚があった。
「……お前の名前、長ったらしくて呼びにきぃんだよ!」
いや、恥ずかしがるぐらいなら最初からカッコつけてフルネームで呼ぼうとするなよ……と、アドバイスをしてやろうと思ったが、やめた。
代わりにため息をひとつつく。
こんな馬鹿どもにいつまでも付き合ってられるか。
さぁてどうするか。吹き矢……は、仕込んでなかったな。ガス?いやいや、あれは確か空気より重いやつだ。今使ったら地面に溜まって私が死ぬ。うーん。
私は地面で、やつらの目線は私に集中している、となると。
――まぁ、あれか。
んじゃまぁ、駄目でもともと、一丁やってみるかな。古典的で使い古された手口だが、こんな馬鹿共だしひょっとして引っかかってくれるかも。
よし、やろう。
すぅっと息を深く吸って……叫ぶ。
「――う……うわぁっ、ば、化物っ! おいお前ら、後ろにでかい化物がいるぞぉー!!」
声は裏返り気味で。驚いたように目を見開き口を大きく開け、精一杯腕を高く伸ばして何もない虚空を鋭く指し示す。我ながら100点満点の、迫真の演技だった。
いや、もちろんそんなもんいないんだけど。
というか、いたらむしろ叫ばない。教えない。その化物に全部お任せして逃げる。
しかし。
「なっ、なにぃ!?化物だと!?」
「よし任せろ!どこだ!上か!?」
「こわい!」
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