冬の夜の目眩

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「どんなかな、外は。」 抱いた興味に後押しされて、 布団からそーッと抜け出そうとして、 すかさず、肩から首にかけて、待ち構えていた大量の冷気軍団の攻撃を許し、 鋭い冷気が次々と刺さった。 慌てて頭から、暖かい布団の陣地に潜り込み、大きく一息つく。 静かさと透明な明るさが誘惑する 怪しい魅力には寒気の攻撃を理由に起きずに このまま僅かぬくもりの中に潜んで、 起きて外を見ることを断念する確固たる 大義名分は見当たらない。 直ぐに半天を引っかけて、 しかし肩をすくめて猫背のままではあるが、布団から出た。 障子戸の戸袋に手をかけて、少しだけ開けてみる。 わずかな隙間から、一条の、 鋭いナイフで切り裂いたような、 光が差し込み、畳と夜具の間に明暗を作った。 うわ窓から、月の姿が見える。上弦の大きな月だ。 冷たく無感情に銀色に反射している。 周りの空は少し青みがかった黒色で、近くに星は無い。 庭の桜の木。 広がる枝そのままの形に雪が積もり、黒い枝に白の雪がかかるという、 実に一服の山水画を見ているような景色だ。 幹の北側にだけ、雪が巻き付いたように着いている。吹雪いたのかな。 庭は一面銀世界に変わり、その先の田や畑も銀一色に覆われている。 それが月の光に映えている。 深夜の寒さの中に、圧倒的な存在感をもって積もっている。 白、と言う軽い色なのにである。 木の影が濃い。 月の光を受けた白いキャンバスに、 幹の太い木そのままの形を黒く くっきりと映している。
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