冬の夜の目眩

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月の光に馴れてくると、 外の風景の明るさは昼間のそれと変わらない程だと、 錯覚を容易にさせてしまうほどだ。 純白の新雪がより月明かりに生えてるのだろう。 北側のトタン屋根のはがれかかった薄いトタンをバタバタと揺らし、 そのまま東のニワトリ小屋の雪よけのこもを揺らし、 通り過ぎてゆく気まぐれな風が、 ひさしに積もっていた粉雪を吹き飛ばしてゆく。 その一つ一つが月の光に反射して きらきら光りながら、風と共に消えてゆく。 桜の枝に黒い何かが飛んで来た。 すぐさま声もなく音もなく去った。そこの枝の雪だけ、 パッと散り落ちて枝の黒さが露出した。 前の杉林の枝を覆った雪が、枝の支えられる重みの限界を超えて、 突然前触れもなく枝がしなって、 雪は自分の重みで滑り落ちて行く。 林のあちこちで、ランダムに起こっていて、予測は出来ない。 坂下の広がる田んぼの脇にはぜ棒小屋が有る。 その横から黒と灰色の犬が現れた。 2匹とも顔を地面の雪につけながら臭いでも 嗅ぐようにして右に行ったり、 左に戻ったりジグザグに歩いている。 2匹の付ける足跡が柔らかい雪の上にはっきりついている。 林の上には、八ヶ岳の峰々が白く浮かんでいる。 深い黒の空にくっきりとその輪郭が現れている。   主峰赤岳を始めとして連峰の山々が 白一色に塗られ、堂々とそびえている。 降った雪は地面をことごとく覆い尽くし、 白無垢の世界に変えてしまった。 今まであった雑踏も、これから起こるであろう音達をも、 閉じ込めてしまいそうだ。 とにかく静かで、音が無い。
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