冬の夜の目眩

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雪の結昌の白い六角形の個体の精と、 その中に存在する純粋な聖と、 同時に大容量で地上に降下し、たちまち白いベールで覆う事によリ 獲得した生とが、織りなす、 今のこの「靜」の世界なのだ。 さっきの犬が、また田んぼに戻ってきては、 せわしくあちこち動いている。 一面白い田んぼは静かに春まで休んでいる。 雪の下には稲の切り株が残り、 あの秋の収穫の喜びを忘れまいとするように。 半年もの間、苗を育て、田んぼの代掻き、田植え。 それに草取り、稲刈りと春から秋の終わりまで、 皆の期待を一身に受けて頑張って来てくれた。 人々に希望と喜びを与えてくれて、今はしばしの休息。 ゆっくり休んでもらい、まためぐる季節の春には 快い目覚めが訪れます様に、白い雪のお布団にくるまり休んでください。 たっぷりと命の水を含んで。 風が吹いているようだ。隙間の多い家なので、 外の冷気は僅かのそれからもしっかり遠慮なく入り込む。 時には雪さえも思いがけないところから進入してくる。 よく見ると、なるほど進入できそうな隙間が、 気が付かないまま放置されていたのだ。 その冷気は、ゆっくりとしかし確実に 部屋の中に拡散して行き、そこによどみとどまっている空気は 制空権を失いつつある。 月はかなり西に傾き、静かさだけは変わらない。 足のつま先や手の指はかじかみそうで冷たい。 吸う空気は重く感じ、とても冷たい。 窓の外の、白一面の世界を目の当たりにすると、 時の過ぎるのは感じるものの、 この美しいモノトーンの世界を出来るだけ長く堪能したいと思う。 天上からの白い贈り物、雪。 その白で覆い尽し、輝く月の光がその雪の白をさらに際立たせている。 音のない世界。 この場を去されるはずがない、 目の前の極上の空間と時が広がる様を 目のあたりにすれば。 ここを離脱できるような器量は持ち合わせていない。
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