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今にも雨が降り出しそうな、曇天の下。賑やかな繁華街を抜けて、人気が無い街外れの街道までやって来た傭兵上がりの男は、周囲に人目が無い事を確認してから、足を止めた。そしてその抜け目が無さそうな顔を皮肉気な笑いで歪めつつ、服の合わせ目の中から布の包みを取り出すと、周囲の様子が変わった事を察したのか、その中に入っていた小さな存在が身じろぎし、重なり合った布の隙間から顔を出して「みゅ~みゅ~」と、微かな泣き声を上げる。
「本当に、お偉いさんのする事は、全然分からねえな」
手の中の全身黒の子猫は、全く状況判断ができないらしく、それを見下ろしながら、髭面の初老の男は本気で首を捻った。
「こんな生まれたばかりの子猫なんて、そこら辺に転がしておけば、そのうち勝手に死ぬに決まってんだろ。それをわざわざ『王都の外まで連れて行って捨てて来い』とは。何の意味があるのかね?」
そうして一緒に布に包まれていた、黄金色に輝く短剣を取り上げ、薄笑いを浮かべる。
「しかも『これも余人の目に触れない様に処分しろ』だぁ? こんな立派な物、嵌めこんである宝石を売り払うだけで、暫く遊んで暮らせるってのに、誰がみすみす埋めたり溶かしたりするかよ」
そして用は済んだとばかりに、男は舗装されていない道の片隅に布の塊を置き、満足そうな笑顔で立ち上がった。
「これはお前が持っていても、役に立たないからな。俺が有効活用してやるよ。じゃ、せいぜい長生きしろよ? チビ」
「みぃ~」
そうして気休めにもならない声をかけて、高笑いしながら去っていく男の頭上から、少しずつ冷たい雨が降り始めていた。
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