第1章

4/8
前へ
/8ページ
次へ
さて、高橋のいつもの朝は湘南鷹取循環バスで七時半から八時台のバスに乗り、約十五分で京浜急行「追浜(おっぱま)」駅に着く。団地内の道路から、一般国道十六号線に出ると追浜(おっぱま)駅までは一直線だから普通であれば十六号線に出てから五分で駅に着くのである。 そして追浜(おっぱま)駅で電車に乗ると金沢文庫でいったん下車し、特急を二台やり過ごし、次の特急が着くと同時に前後に増結車両が入ってきて増結車両に座ることが可能である。「ア」は「金沢文庫」駅での増結車両が後ろに増結する意味であり、「マ」は前に増結する電車なのだ。 もちろん、「左回りの法則」を活用し、並ぶ時はドアに向って右側に並ぶ。他の時間帯ではこううまくいかない。京急は大体二つの特急をやり過ごさないと座れないのである。それほど、京急はラッシュが続く。  ところがその日はいつもと違っていた。国道十六号線に出るといやな音が聞こえてきた。 「ピーポー、ピーポー、」例の音である。 国道十六号線は案の定渋滞が始まっていた。二、三分進んだかと思うと二、三分止まる。それの繰り返しが何度か続くと国道十六号線の左側にはパトカーが二台赤い警告灯を点けながら止まりかけており、その先に乗用車とトラックがドッキングしている。助手席にはぐったりとして若い女性がうずくまっている。運転手同士は言い争いをしていた。  このような光景は通勤者にとって何度かお目にかかるが、バスの車内ではその後がたいへんである。駅前の停車場よりふたつぐらい前の停車場でおりて歩く人、ケイタイであちこちに連絡するひと、あきらめてじっとしている人、事故には目もくれないで寝ている人、千差万別である。結局その日は三十分以上バスに缶詰となった。 「泣きっ面に蜂」といって、不運は続く。予定した電車に乗れないと、「金沢文庫」駅での増結車両にもうまく乗れない。「金沢文庫」駅での増結車両は特急が到着するたびにその車両の前後に交代で増結するから、予定が狂うと増結車両に乗るためにホームを行ったり来たりしなければならない。ドア一つにつき三人並んで増結車両を待つが十八人以上並んでいると次の増結車両を待たないと確実に座れないからまた遅くなる。だから、増結車両に乗り遅れるとホームの端から端まで運動会となる。おまけにホームのアナンスは 「ホームでは危険ですから走ったりしないで下さい」とくる。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加