第1章

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不運の連続は「横浜」駅に着いてからも待ち受ける。いつもと異なるドアから乗り込むと、隣のJR根岸線への乗換え時間がいつもと違った場合はいつものJRの車両には永久に乗れない。人間の習性は仕事と同じでうまくいっている時はよいがひとたび「不運」につきまとわれるとすべての習性に影響を与える。 しかし、高橋はこんな不運も高橋はがまんできるようになった。 確かに十六号線の自動車事故で電車に乗り遅れたのは不運であるが、バスの中でその日の予定の確認や、三十分過ぎの間に会社で遣り残した簡単な仕事をやってしまうこともできる。仕事の参考書や読みたい本も読める。ボーとしているよりは時間を有効活用できるからである。待ち時間で一仕事が終わるとなにか得をした様な気持ちになるのは自分だけではないだろうと高橋は思った。 「金沢文庫」駅でいつもの増結車両に乗れなくても苦にすることはない。新しい増結車両の乗り方を発見できるから、次回おなじ不運が生じてもあわてることがない。JR根岸線への乗換え階段の新しい発見も同様である。また、こんなこともあった。  電車の事故で電車が「金沢文庫」駅のすぐ手前でストップした時高橋はすごい発見をしたのである。「金沢文庫」駅の手前には京急の車両基地がある。車両基地には点検中の電車などが間隔をおいてどれも確実に四両ずつ連結されている。車両基地内では一見どこでも見られる風景であるが、四両連結車両の車両番号をよく見ると、みんな連番になっている。例えば一〇〇一番から順番に一〇〇四番とどの連結車両も番号までが連結しているのだ。車両管理の要請かもしれないがこの「四・四現象」を発見した時高橋は時間を忘れて連結車両を目で追いかけていた。それ以来車両番号が気になってしようがない。 このように人の運・不運というのは心の持ち様でころころ変わる。 高橋はこれまで相鉄を含め五十年近い電車通勤で色々な人間を見てきた。今はスマホをいじる人が多いが以前は十人十色だったのである。 「みなさまにお願いします。優先席でのケイタイ電話はお切りいただき、それ以外の場所ではマナーモードにし、通話はご遠慮ください。ご協力ありがとうございます」 
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