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そこは都内にありながら、ひっそりと佇む図書館。
しかし、蔵書が幅広く揃っているためか利用者は平日でもそこそこ多く、また大学にも近いため学生の利用も盛んである。
そんな図書館に勤める彼女、如月 羽梛(キサラギ ハナ)は、手に大量の荷物ーー本を抱えていくつもの書架の間を移動していた。
いわゆる「配架」と言われる作業だ。
返却された本を、元あった場所へと戻していく。
「えーと、…また上の方だ…」
思わず溜息がこぼれる。
今日の配架は上の段のものがなぜか多い。
羽梛はあまり身長が高くない…と言うか、どちらかと言うと低い方だ。
書架はおよそ2メートルあり、上の列の本を出し入れするには踏台を使用しなければならない。
だが、周りを見渡しても手近に踏台は見当たらず、羽梛は苦い顔で手元の本と書架とを見比べる。
本はハードカバーではあるが、専門書のように分厚くはない。
(これなら行けるかな…?)
淡い期待を抱きつつ、右手で本の下の方を掴みぽっかりと空いてる部分へそっと差し込む。
左手にはまだ他の書架に返さなくてはならない本を抱えたままで、爪先立ちというバランスの悪い状況だ。
そうやすやすと本が入ってくれるわけがなかった。
「もう…ちょい…っ」
指先に力を入れたーーその時。
「っ…あ…!」
ズルッと、左手に持っていた本が滑り落ちそうになり、それに気を取られたところで押し込もうとしていた右手の本が自分めがけて落ちてくる。
(しまった…!)
羽梛は自分に降りかかるだろう痛みより、本へのダメージの方を恐れた。
落下してくるそれへ身構える。
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