一夜 再会

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間近に迫る本に、やはり無意識に目を閉じる。 ーーしかし。 「っ……、…あれ?」 恐れていた衝撃も、本が落下する音もない。 それどころか、気づけば自分の頭は誰かの腕で覆われていて、目を開けても視界は暗いままだった。 背後に感じる気配が、盛大に息を吐き出す。 「……っぶねー……」 「え?」 硬直したままで、恐る恐る背後を見る。 動いたことで相手の腕もすんなりと離れた。 そこには、自分より頭一つ分は背が高い青年が立っていた。 少し目元にかかる前髪の奥から見えた瞳と視線が重なる。 「…あんたさ、小さいんだから無理して入れるのやめたら?」 「ご、ごめんなさいっ」 慌てて頭を下げると、彼は羽梛が入れ損ねて落とした本を元あった場所に収める。 どうやら羽梛を庇いつつもきちんと本を受け止めていたらしい。 「ありがとうございます。助けてもらわなかったら本を傷つけるとこでした」 「本の前にあんたの顔が危なかったと思うけどな…」 明らかに呆れた顔で言われてしまった。 「それ、まだ上のやつとかあんの?」 「あ、何冊かありますけど大丈夫です。ありがとうございました」 「あそ。顔面に落とさないようにな」 ひらりと片手を上げて、青年は書架の列から机の並ぶ方へと歩き出す。 だが、何かを思い出したように顔だけこちらに向けて。 「ああ、その腕のやつそろそろ限界だぞ」 「…腕?」 「夜は気をつけるんだな」 それだけ言って、今度こそ彼は去って行った。 羽梛は何を言われているかいまいち理解ができず、腕を見る。 手首には母の形見である数珠ブレスと、愛用の時計くらいしか身に付けていない。 「限界…って、何がよ…」 小さな問いかけに応える声などもちろんありはしないのだが。 助けてもらっておいてなんだが、ちょっと不審だと思ってしまった。 「ハナ~終わったぁ?」 「あ、ごめんもうちょっと!」 背後から親友の声が聞こえてきて、慌てて返事する。 時計を見ればもう少しでお昼の時間だ。 本を抱え直し、羽梛は残りの本を片付けるべく動き出した。
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