14人が本棚に入れています
本棚に追加
ーーーーー
つんつん、と弁当の中にある唐揚げを突いて弄ぶ羽梛に、向かいに座る澪が不思議そうな顔をした。
「どうしたのー、ハナ。食欲ない?」
「え?いや、そんなことないよ。なんで?」
「なんでって、さっきからその唐揚げ突くだけで食べようとしないから」
言われて気付く。
すでに衣がボロボロになりつつあるそれに、羽梛は慌てて口に運んだ。
「どうしたのよ、浮かない顔して。もしかして来週にある読み聞かせ会で気になることでも?」
「んーそれは大丈夫。…さっきね、図書館を利用しに来てた人に言われたことが気になって…」
「気になること?」
うん、と頷き、羽梛が手首にある数珠を撫でる。
それが彼女にとってとても大切なものということを、澪はよく知っていた。
何せ高校からの付き合いなのだ、伊達に親友を語ってはいない。
「…何を言われたの?」
何か、ではなく何を、と言ってるところからして、すでに彼女は確信していた。
その利用者が羽梛の気分を塞いだことを。
「…限界だって。この数珠のことだと思うんだけど…何が限界なのかわからなくて。ゴムが緩んでるわけでも切れ目が入ってるわけでもないし、見た限りではそんなことないのに何が限界なんだろ」
澪もその言葉に改めて羽梛の数珠に目を向けるが、彼女の言う通り数珠に異変があるようには見えない。
ただの嫌がらせか何かだろうか、と首を傾げた時、羽梛が小さく声を上げた。
「あ…!」
店の外を眺めていた羽梛がわずかに腰を上げる。
が、すぐに着席した。
「羽梛?」
「今いたの、さっきの話の人。あっちって大学の方…大学生?」
自問自答するように青年が消えた方を見ながら呟く。
見た感じは確かに若かった。
最初のコメントを投稿しよう!