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開くと、そこにはたった一行。
「助けてください」、と。
羽梛は慌ててアイコンをクリックし、通話の文字をタップする。
LINEの履歴は10分前。
後輩の彼は勤務地の図書館から二駅のところで、LINEの時間からすると羽梛と別れてからさほど経っていないはず。
「出ない…一体何があったんだろう」
何時までも鳴り続けるコールに業を煮やす。
羽梛は通話を諦めると、時計を再度確認する。
くるりと踵を返して、先ほど降り立った駅へと足早に向った。
駅前にはまだ数台のタクシーが停まっていて、そのうちの一台に近寄るとコンコンとノックした。
「はい?」
「今から言う駅まで乗せてってください」
運転手は快く後部座席を開けてくれた。
乗り込んで三駅隣の駅名を言う。
走り出すと同時にもう一度LINEを開き、今度は澪の名前をタップした。
『長谷部くんからSOS有り。通話しても反応ないから彼の最寄駅まで行ってみる』
送ると、ものの数十秒で既読がつく。
澪の家は勤務地の図書館から自転車で20分の場所で、若干長谷部の最寄駅よりだった。
自分が行くよりは彼女の方が近いかもしれないが、それでも自転車と車ではこちらの方が断然速い。
『事情はあとで聞くから、何かあったらすぐに連絡してね』
一を言うと十で返してくれる親友に感謝する。
本当に、よくわかっていてくれる。
とにかくまずは長谷部に何があったのかを把握しなければならない。
何か事件や事故に巻き込まれたのか、それとも仕事のことか。
いずれにせよ「助けてください」と送ってくるということは何かしらあったということだ。
さらにこちらの通話にも気づけないほど。
「長谷部くん…」
長谷部は、昨年入社した二つ下の後輩である。
元から彼の教育を任されていて、今回読み聞かせ会でも共に選抜され一緒に動いていた。
人懐こい彼は職場内でも可愛がられていて、もちろん羽梛も例に漏れず慕ってくれる彼をとても可愛がっていた。
そんな後輩からの言葉を無下にはできず、さらに尋常でない内容に臓腑がひやりと冷える。
(何もなければいい…)
流れる車窓のネオンを目で追いながら、羽梛は携帯を握りしめた。
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