一夜 再会

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それから20分程して、長谷部が住む最寄駅に到着した。 お金を払い、お礼を言って車から降りる。 羽梛の降りる駅よりもさらに閑散としていて、明かりといえば点々と立っている街灯だけ。 店も見渡す限りでは見当たらず、走り去ったタクシーを見送ると途端に静寂に包まれた。 羽梛はもう一度長谷部のスマホに電話をかける。 今度はアプリからではなく、携帯の本来の機能から。 虚しいコール音だけが響く。 ーーその時。 「っ…い…」 ずきりと、頭の奥が鈍く痛んだ。 同時にスマホを当てていない方の耳が、強い耳鳴りに襲われる。 何が起きたのかわからないまま、羽梛はスマホを離した。 あまりの強い耳鳴りに視界がブレる。 すぐそばにあった街灯に寄りかかり、波が過ぎるのを待とうとしたらふいに声が聞こえた気がした。 【あっち】 「え…?」 羽梛はゆっくりと閉じていた瞼を持ち上げ、辺りを見渡す。 すると今度ははっきりと。 【あっちよ】 脳内に直接響く声。 羽梛は訳がわからないまま、導かれるようにフラフラと歩き出した。 駅から10分ほど歩いただろうか。 視界の端に開けた場所が見えてきた。 どうやら公園らしい。 そこそこ広く、周辺をフェンスと茂った木が囲っていた。 フェンスの切れ目が見え、そこだけぽっかりと口を開けている。 公園の入り口だった。 「……」 迷いもなく公園内へと足を進めて。 入ってすぐに、ぞわりと背中を悪寒が走った。 何故かわからない、しかし羽梛は強烈な悪寒に一歩後退る。 【助けたいなら、逃げちゃダメ】 「っ…な、に…」 それは優しく諭す声。 視界の端がゆらゆらと揺れ、白い靄のようなものが浮かび上がる。 そうしてその「靄」は、次第に人の姿へと変化した。 すらりと背筋の伸びた、女性の姿に。
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