古城と魔女の宴

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昔、私の事を気にかけた先生がいた。 一人だけクラスの輪に入れない私を、 可哀想に思ったのだろう。 放課後に職員室に呼ばれて話をした。 私が一人でいることが心配だと言ってくれた。 その先生の親切心に応えようと、 できるだけ正直に私の事を話した。 でも、その先生は私の話に、終始眉をしかめ続けた。 最後には説得を諦めたように強い口調で言った。 「マリの話はわかった。  でもこのままだとずっと独りだよ?  マリは一生、孤独でいたいの?」 「いいえ」と答えればよかった。 「友達が欲しい」と正直に言えれば良かった。 でも私は、何よりもコドクという言葉に反応してしまった。 コドクは頭の中で蠱毒という単語に変換された。 日常には絶対に出てこない、私の興味のある単語。 それが不意に出てきた嬉しさに舞い上がってしまった。 そして勢いそのままに、 「やってみたいと思っている」と無邪気な顔で答えた。 先生は不思議に私を見たが、 やがて合点がいったように笑顔を浮かべた。 先生はきっと、匙を投げたのだろう。 諦めを笑顔で覆って、話は終わった。 そうして私は、大人からも公認で一人でいることを許された。 私の話は、相手には伝わらない。 周囲とうまく噛み合わない。そんな存在だった。 でも、それを悪いと思ったことはなかった。 むしろ私は恵まれているとさえ、思った。 世の中は「変なもの」には攻撃をして、 排除しようとするのが道理だ。 だけど私は、周りとかかわらないことを引き換えに、 居場所を与えられた。それは幸運なことだと思う。 それにだ、私は許してもらえた。 色々な人が、興味のある話題を話す楽しげな様子。 それを遠くで見て憧れることは、許してもらえた。 十分すぎる程、恵まれた環境だ。
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