古城と魔女の宴

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ぱん、と空気が鳴った。 それを合図に再び明かりがつく。 音のした方を見た。 正面階段の踊り場。 さっきまでは誰もいなかったそこには、人が立っていた。 その人を見た瞬間、他のものは消えてなくなった。 白銀のロングヘアーに、白くするりとした肌。 その佇まいは、人としての温度が感じられなかった。 白磁器で作られた等身大の人形が、 目を閉じて俯いているようだった。 人形が顔をあげて、目を開けた。 宝石を嵌め込んだような深緑の光彩。 その瞳に宿った高潔さが、目を奪い離さなかった。 温度のない顔が、優しく包むような暖かい微笑みを浮かべた。 冷たく、暖かいという矛盾。 その人の前では、矛盾さえも膝を付き、従っていた。 ホールに綺麗な声が響く。 『皆様、ようこそおいで下さいました』 私は一言一句を聞きこぼさないように、 目を向け、耳をそばだてた。 『本日はこのワルプルギスの夜にお集まりいただき、  ありがとうございます。  この会を主催させていただきます。  リーゼ・アニエスといいます』 リーゼさんの会釈に、頭が下がる。 顔を上げると目があった。 冷たく暖かい微笑みに、体が固まり心が溶かされる。 『宴の前の長い話ほど無粋なものもありませんが、  少しお時間を頂きます。  この宴の意味を、お話したいと思います。
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