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「さてと」
そう言って、現実に目を戻した。
実際ところは、まだ始まってすらいなかった。
両手で、頬を包むように打ち鳴らす。
気合を入れ直し、目的地を見た。
夕方が終わり、夜が始まる。
そんな夕方でも夜でもない空を背に、
その古城は建っていた。
四方を森に囲まれた、大きな城。
石造りの外観は、
祭祀場や、秘儀所といった雰囲気だ。
ホーンテッドマンションにシンデレラ城を足して失敗し、
そのまま忘れられたような建物。
長い時間は、異質感と不気味さばかりを際立たせたようだ。
心なしかお城の周りの空気も、重たく冷たそうだ。
飲み込んだ息が喉を鳴らした。
いつの間にか、体が強ばっていた。
一応、後ろを振り返り、退路を確認した。
真っ暗な森は、風もないのに木の葉が揺れていた。
まるで枝のように細い手で「おいで」と言っているようだ。
選択肢は2つ。
「前に進む」
「森に入る」
できるならば、どちらも選びたくはなかった。
でも、どちらか選ばないといけなかった。
あはは、と死んだ声が出る。
それから親指と薬指を、眼鏡の両端にあてて押し上げた。
覚悟を決める。
どんな状況でも、
一度決めたら迷わない。
私は、お城へと歩みを進めた。
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