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何事も最初が大切だ。
それは学校という階級社会(スクールカースト)で、
身をもって学んだことだ。
リーダーになりたければ、明るく気さくに振舞って、
どんな仕事でも率先してやればいい。
世の中に対して反骨心を出したければ、
だらしなく振る舞い、とにかく否定的な事を言えばいい。
そんなことは簡単だ。
一番難しいのは、空気になること。
空気のように透明に、
視界に入っても意識されない存在になることだ。
そして、私が安心して生活できる立ち位置はそこにしかない。
そのために必要なことは、
自然体にしながらことごとく情報を集めて、
周りの表情から心中を読み取り、先を予想することだ。
つまり、空気を読むこと。
空気を読んで、空気になる。
その能力だけは、他の誰よりも磨いてきた。
大丈夫。落ち着いて、いつも通りに行けばいい。
メガネの両端を指で押し上げた。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
古城の扉は、重厚な作りをしていた。
よくわからないが何かの金属だ。
そこに緻密な模様が施されている。
細部の摩耗は長い年月を感じさせる。
何か生き物だろうか、大きな目と口が掘られている。
なんとなく「真実の口」を連想させる。
ノック・ノック。
音が響き、消える。
私は扉を開けた。
中には何人か人がいた。
その人たちが一斉に、矢のような視線を投げつけてくる。
大丈夫、矢は当たらなければ意味がない。
その視線に目を合わせなければ何も怖くない。
返事替わりに、軽く微笑み誰もいない空中に会釈をする。
顔を上げると、もう視線を感じることはなかった。
第一関門は無事突破したようだ。
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