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「私はシエル・ローラン。受付係をしていたの。
貴女が最後の一人。さ、こっちに来て」
シエルさんは私の手を引くと、
すぐそこに置いてあった長机に引っ張っていった。
扉を開けた時には、ちょうど影になっていた所だった。
まだまだ観察が足りないと、反省した。
「招待状を出して、ここに名前を記入して貰える?」
言われた通りに荷物から招待状を出して渡す。
それから差し出されたゲストブックを見た。
そこには11人分の名前と、
その隣にギリシャ数字が不規則に振ってあった。
私が最後ということは、参加者は全部で12人か。
そんなことを思いながら、名前を記入した。
Mari・miyasiro
今まで何度も見てきた。
好きでも嫌いでもない、平凡な名前。
「マリね。可愛くて素敵な名前」
お世辞と分かっていても、
可愛い娘にそう言われて悪い気なんてしない。
その気持ちを笑顔で返した。
シエルは招待状を手渡すと、小さな封筒を取り出した。
「好きな封筒を選んで」
封筒は全部で11通あった。
選択肢が多く迷ったが、
時間をかけてもシエルさんの迷惑だろうと思い、
一番右にあった封筒を選んだ。
「中を確認して」
促され、封筒を開ける。
中には「Ⅱ」と書かれたプレートと、鍵が入っていた。
「それがマリの部屋の番号。
部屋は2階にあるから、その番号の部屋を使って。
2階へは、エントランス正面にある中央階段を使って」
シエルさんはそこまで言うと、一度間を空けた。
「何か聞きたいことはある?」
本当は聞きたいことがたくさんあった。
でもそれ以上に、この緊張から逃れたかった。
何も考えずに「ありがとう。大丈夫です」と答えていた。
「本当はもうちょっと説明したことがあるんだけどね」と言って、シエルさんは続けた。
「そろそろ開宴時間だし、詳しいことは後で教えるわ。
マリも時間にはこのエントランスにいてね」
開宴時刻?何時?
疑問がひとつ増えた。
だが停止した思考は、その疑問を優しく受け入れて消した。
「ありがとうございます」と言って、軽く頭を下げた。
その場を離れ、余裕を持ちながら急いで部屋に向かった。
いつなのかもわからない開宴時間に、
戦々恐々としながらエントランスに戻ってきた。
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