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スマホの画面を見つめること数時間。
ネットでもなく、LINEでもなく、Twitterでもなく、ただただひとりの連絡先を見つめていた。
今日こそは、と連絡しようとスマホを手にしたとき、まだ外は明るく、楽しそうに遊ぶ子供の声も聞こえていた。けれど、気づけばどっぷり日も暮れていて、電話番号を押そうと指を近づけて、まだ心の準備ができていないと言い訳しては指を離す。かれこれ三時間は経っただろうか。
「いい加減女々しいな、俺も」
今日はもう諦めて明日にするか、なんて思いながらソファーに体を預けた。
プルルルルルル プルルルルルル
「っ、やべっ」
勢いよく横になったはずみで、画面に指が触れてしまったようだ。
どうする、どうする、なんて声かける。こんなにも狼狽えることがあるのか、と半ば他人事のように考える。
ぐるぐると目まぐるしく焦燥が駆け巡る。
「……もしもし?」
ああ、久しぶりの百合子の声だ。甘ったるくない、からっとした声。中低音なアルトの声が、俺の耳に木霊する。
「もしもし? どちらさまですか?」
えっ、と感嘆の声をぐっと飲み込んだ。
「百合子?」
「…………瑞樹?」
「おー。久しぶり」
「ふふっ。なに、それ? 確かに久しぶりだけど。急にどうしたの?」
「いや、なんつうか、今何してるかなって……思って」
気の利いた言葉が何一つ出てこなかった。心臓の音がひどく大きい。
「本当にどうしたのよ? 何してるかって、いつもどおりだよ。今、ちょうど仕事終わって帰ってきたとこ。まだ仕事着のままだから、早く着替えたいんだけど?」
くすくす笑う声が受話器越しに聞こえる。気を使わせないように、軽く悪態をついてくる感じ……変わってない。
「そ、そうか。タイミング悪かったか、悪い。ず、ずいぶん帰り遅いんだな。お前ひとりで帰ってきたのか。夜道は危ねえって言っただろ、気をつけろよ。なるべく街灯あるとこ通れよ。あと夜はまだ冷えるからな、上着持って歩けよ」
「いやいやいや、親ですか。全然話が見えないんだけど。ふふ、でもありがとね。ていうか、なんか用があってかけてきたんじゃないの?」
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