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秘密の時間は長くは続かなかった。
一学期が終わる終業式。午前中で授業が終わった暁は、いつものように資料室に来ていた。
「見てよ。俺、現国の点数こんなに上がったよ。初めてだよ」
そう言って返されたばかりのテスト用紙を広げた。
「すごいね、がんばったじゃない」
一緒にいる間勉強を教えてあげたことはほとんどなかった。けれど碧が学校からアパートに帰ってくるまでの間、彼はひとり部屋で勉強をしていた。その成果が出てるんだろう。
そう、この頃碧はアパートの鍵を彼に渡していたのだ。部屋に帰るとよく、彼が勉強をしながら聴いていたCDが机の上で小さく雪崩をおこしていたものだ。
エアロ・スミス、ジャクソンファイブ、ウィンドアンドファイア、それにザ・ビートルズ。いまどきの若者だというのに聞く曲は一九七十年代の洋楽ばかりだった。中学のときはコピーバンドもしていたらしい。
「高校でも続けたらよかったじゃない。バンド部だってあるし」
碧がそう言うと、いかにも教師が言いそうなことだよなと暁はニヤッと笑った。生意気な顔。碧がそれを嫌ってないことがわかっているからよけい腹が立つ。
でも愛しかった。
「飽きっぽいンだよ俺」
碧の部屋であぐらをかいてLet it beを聴きながら、長い睫毛を伏せて教科書をめくる。狙いすましたような角度で碧を見上げるとまた笑う。
「こんなさ、マジになったの初めてだよ。碧がはじめて」
そんなことを言われて、きれいな目をしたこの少年を空間ごと閉じ込めたいと何度おもっただろう。夏に食べたアイスよりお菓子より甘い。いつしか碧にとって暁はそんな存在になっていた。
後から考えると、若かったとはいえなんて浅慮だったんだろうと思うし、夜一人で飲んでるときに改めて当時を思い返したりすると、やっぱり溺れていたんだよなぁ、と妙に冷静に振り返ったりもする。
だけどこのときは立ち止まって考えることもしなかった。たぶん、碧も初めてだったのだ。こんなに誰かを愛しくおもうことが。
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