31歳、職探し中

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 暁が顔を上げて、こちらを振り返る。いつものきれいな目が涙で真っ赤になっている。胸がキリッと痛んだ。 「どうしてもっていうから、からかっただけじゃない」  両腕を組む。力をこめて。そうしないと倒れてしまいそうだった。 「先生、なに言って」 「……碧?」 「ちょっとやめてよ、なれなれしいんじゃないの?」  眉間にシワを寄せて、ため息を吐いた。低く吐き捨てる。 「ほんと、ガキってこれだから困る」 「碧、なに言ってんだよ」  ぼうっと碧を見ていた暁の顔が、徐々に困惑していく。碧は目をそらして、袴木を見た。 「遠野君と私はなんにもありません。先生、ご存知ですよね、私に婚約者がいること」  声が震えないように、体の芯に力をいれる。  指導教員が胡乱な目つきで碧を見た。 「碧、なんだよそれ!」  信じられないという顔で暁が立ち上がった。勢いよく立ち上がった所為で、上履きが滑って転びかける。  碧は両腕を組んだまま暁を見下ろした。 「……あおい」 「先生でしょ? ほんと、何を考えてたのか知らないけど」  まっすぐに暁を見る。赤い目が、呆然とこっちを見ている。いつもの強さが無い。迷子になった子どものような。  ちがう。余計なことは考えるな。 「君はただの生徒の一人よ」  一言一言、区切るようにはっきりと言う。 「だって私たち、なんの関係もないじゃない」  はっきりと、暁が傷ついた顔をした。心の痛みが透けて見えるようだった。組んだ両腕に一層力をこめる。跡が着くくらい強く。それなのに痛いともおもわない。口の中がひどく渇いた。 「ね、君、もう帰ったら? 下校時刻は過ぎてるわよ」  暁の顔がカッと紅潮する。口の中でなにか吐き捨てるように呟いて、  ダンッ。  大きな音をたてて扉を開く。  バンッ。  一瞬後、迷い無く扉が閉められた。  ダダダダ、と遠ざかっていく足音を聞いて、そのままガクンと座り込んだ。
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