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袴木がじっと私を見る。黙って頷くと、静かに資料室を出て行った。
約束通り、碧はアパートに帰ってすぐに退職届を書いた。
もしかしたら、と思ったけど、暁は来なかった。
そのほうがいい。絶対いい。
テーブルの三分の一を占領している暁のCDの山から暁の匂いがしそうで、触ることも見ることもできなかった。
突然の退職願いにだれもが驚いていた。学年主任は引き止めるというよりも激怒していた。先生が年度末を待たないで辞めるなんてありえないと怒鳴られた。けれどもかまっていられなかった。最後は逃げるように学校を後にした。
本当に、生徒よりも性質が悪い。
同じ日に、アパートも解約した。
以来一度もあの街に帰ってない。
袴木はおそらく約束を守ってくれた。その証拠にあれから八年も経ったのに、碧のところに淫乱教師、という悪戯電話は一度もかかってきていない。
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