最悪の再会

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「ちょ、おい遠野」 「時間の無駄ですよ、長谷さん」  暁は腕にはめた時計を見ると、 「俺、次の会議用の資料作りたいんで。戻ってますね」  そう言いながらすでに立ち上がっていた。ガタン。立ち上がる椅子の音が会議室に響く。  遠野、と長谷が叫ぶのを、碧はぼんやりと見つめていた。暁は、八年ぶりに会った元恋人は、目の前をすっと通り過ぎていった。一度も振り返ることもなく。  バタン。  扉が閉められる。  その後ろ姿が、閉められた扉が、八年前の資料室から出て行った背中と重なって見えた。  いつのまにか涙は止まっていた。ぼうっと扉を見る。長谷が何か言ってるけど、まったく耳に入らない。  やっぱり憎まれてるんだ。  事実がしんしんと胸に降って、碧は黙ってそのことを受け入れていた。   そうだろう。八年前のあの日、自分が暁になにを言ったか忘れたわけじゃない。しかも次の日から姿を消した元恋人なんて、碧以上に会いたくなかったはずだ。  そうだよなぁ。  悲しみも一周回って、ふっと力なく笑った。
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